『ボルドーの秘宝』に関連して アキテーヌ公ギヨーム九世
『ボルドーの秘宝』を出版するに際して、何冊か参照文献を読んだ。
書名: 王妃エレアノール 著者名: 石井 美樹子/著 出版者: 平凡社
書名: 王妃アリエノール・ダキテーヌ 著者名: 桐生 操/著 出版者: 新書館
書名: トルバドゥール詞華集 著者名: 瀬戸 直彦/編著 出版者: 大学書林
書名: アキテーヌ公ギヨーム九世 著者名: 中内 克昌/著 出版者: 九州大学出版会
上2冊は著者の奥さんが読み、下2冊は私が読んだ。
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ギヨーム9世(Guillaume IX、Guilhen de Peiteu、1071年10月22日 – 1126年2月10日)
中世フランス王国の貴族でアキテーヌ公(ギヨーム9世、在位:1088年 – 1126年)、ポワティエ伯(ギエム7世、在位:同)。ギヨーム8世とブルゴーニュ公ロベール1世の娘イルデガルドの子。ギヨーム・ド・ポワチエ、オック語ではギエム・デ・ペイチュとも呼ばれる。
今どきのネットは、しばらく前ならその存在も知らなかったような貴重な資料が、テキストどころか音声でも発見できる。
まさか、トルバドゥールの歌が聞けるとは驚きだ。発音は現在のフランス語よりはイタリア、スペインの音に近い。先ず鼻母音がなさそうだし、語尾が開放音節ばかりである。
ギヨーム9世から孫のアリエノール・ダキテーヌにかけてパリを中心とした北フランス(オイル語)とボルドー、ポワティエを中心とした南フランス(オック語)はきっばりと別れていて、南フランスのアキテーヌ公国は現在のフランス全土の4分の3の領地を持ち、フランス王国より3倍も大きい領土を所有していた。
ギヨーム9世は自身が最古のトルバドゥールと言われた人物で、代表作が以下の
« Farai un vers pos mi sonelh »(オック語)(眠りの中で歌を作ろう)である。
以下の翻訳は『アキテーヌ公ギヨーム九世』の中内克昌さんによる。
内容がいかにもおおらかなものであることに驚く。後のボッカチオの艶笑譚『デカメロン』に引き継がれるゴロワ的なユーモアだ。
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ひとつ詩を作ろう、俺は眠ってはいるが
日に当たりながら歩いているのだから。
世の中には性悪な女たちがいるものだ、
それが誰だか教えよう、
それはな、騎士たちを愛することを
さげすんでる女たちだ。
言語道断のひどい罪を犯しているのだぜ
誠実な騎士を愛さぬ女というのは。
恋の相手が修道士や聖職者というのなら、
お門違いというものだ。
当然そんな女は火あぶりにすべきだろう
燃えさかる炎に掛けて。
リムーザンの向こう、オーヴェルニュへ
俺はひとりお忍びで道をたどっていた。
その折に俺は出会ったのさガラン氏と
ベルナール氏の細君に。
二人は愛想よく俺に挨拶をした、
聖レオナールさまに誓って。
一人がそこのお国言葉で俺に言った。
「神のお助けがありますように、巡礼さま。
そちらさまはきっとよほど尊い家門のお方に、
お見受けいたしますわ。
だけど世間には仰山いなさるもんですわ
お瘋癲さんたちが」
そこで聞きたまえ、俺が何と答えたか。
俺は彼女にこうともああとも言わなかった、
まともなことは何もしゃべらなかった、
ただこう言ってやったのよ。
「ババリオル、ババリオル、
ババリアン」とね。
アニェスがエルメッセンにこう言った。
「ついに会えたわね探し求めてたものと。
ねえ、お願いだから、泊めたげましょうよ、
きっとこの人唖だもの、
あたしたちどんなことしようとこの人に
暴露されることないわよ」
一人がひそやかに我が輩の手をとって、
彼女の部屋の暖炉のそばに連れてった。
それはまあ実に俺はいい気分だったよ、
火はよく燃えていた、
それで俺はほくほくしながら暖をとった
たんとある炭火に当たり。
女たちは丸々肥った鶏を食わせてくれた、
はっきり言って二羽分以上はあったろうよ、
しかも料理人もいなければ皿洗いもいない、
俺たち二人きりなんだ。
それにさパンは白いしワインはうまいし
胡椒もたっぷりあった。
「ねえちょっと、この人油断ならないわよ、
わざと口をつぐんでるのよ、あたしたちに。
赤茶毛のニャン公を連れてきましょうよ
さっそく今すぐに、
あれならすぐ化けの皮をはがしてくれるわ
騙す気があるのなら」
アニェスがそこでそやつを探しに行った、
でかい図体の長いひげを生やした猫だった。
だから俺は、それがこっちに来たのを見て、
おっかなびくびくだった、
俺の勇気もあわや失せるところだったよ
そしてファイトまでも。
われわれ飲んだり食ったりしてからすぐ、
俺は女たちの御意のまま服を脱いだ。
俺の後ろに彼女らはその猫を連れてきた
たちが悪くて物騒な。
で、一人がそやつを俺のわきの方に引き寄せた
かかとのところまで。
いきなり彼女が猫のしっぽをつかまえて
ぐいっと引っ張るとそやつは俺を引っ掻く。
おかげでこっちは百をも越す傷だらけ
ほんとそのときは。
だが断固俺は身じろぎもせぬぞと構えていた
たとえ殺されようとも。
「ねえちょっと」アニェスがエルメッセンに言う、
「ほんとにこの人唖さんだわ、間違いないわ。
それじゃあ早速お風呂の支度をしようよね
そして楽しみましょう」
一週間とそれ以上俺はお世話になりました
そのおゆどのでね。
俺が何度楽しませてもらったか教えよう。
実にひゃくはちじゅうはち回もですぞ、
おかげでこっちの脚のつけ根と用具のほうは
あわやちぎれそうだった。
あとの痛さは口で言い表わせるものではない、
そりゃひどいものだったよ。
とても言い表わせないその痛さといったら、
そりゃひどいものだったよ。
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