『南方郵便機』の解読(その1)
『南方郵便機』の解読
下の図を見てほしい。当時の「アエロポスタル社」のポスターの一部を切り取った南方郵便機の経路である。
主人公ジャック・ベルニスが搭乗した南方郵便機はフランスからアフリカまで以下の中継点を経て飛行することになっている。(天候により着陸せず飛行を継続することもある)
Toulouse ツールーズ(トゥールーズ)
Barcelona バルセロナ
Alicante アリカンテ
Casablanca カサブランカ
Agadir アガディル
Cap Juby (Cabo Juby) ユービ岬(キャップ・ジュビー)
Villa cisneros シスネロス
Port Etienne サンテティエンヌ
St. Louis サン=ルイ
Dakar ダカール
第1部第1章(日本語の引用はすべて長塚隆二訳)
Ce matin-là, le monde commençait pour nous à s’émouvoir. L’opérateur de T.S.F. nous remit enfin un télégramme : deux pylônes, plantés dans le sable, nous reliaient une fois par semaine à ce monde :
« Courrier France-Amérique parti de Toulouse 5 h. 45 stop. Passé Alicante 11 h 10. »
Toulouse parlait, Toulouse, tête de ligne. Dieu lointain.
En dix minutes, la nouvelle nous parvenait par Barcelone, par Casablanca, par Agadir, puis se propageait vers Dakar. Sur cinq mille kilomètres de ligne, les aéroports étaient alertés. À la reprise de six heures du soir, on nous communiquait encore : « Courrier atterrira Agadir 21 heures repartira pour Cabo Juby 21 h. 30, s’y posera avec bombe Michelin stop. Cabo Juby préparera feux habituels stop. Ordre rester en contact avec Agadir. Signé : Toulouse. »
De l’observatoire de Cabo Juby, isolés en plein Sahara, nous suivions une comète lointaine.
その朝、世界はわれわれのためにやきもきし始めた。無電技師がやっと、われわれに一通の電報を手渡してくれた。砂の中に打ち込んだ二本の柱のおかげで毎週一回、われわれはこの世界と連絡がとれたのだ。
《フランス――南米間郵便機五時四十五分ツールーズヲ出発 十一時十分アリカンテヲ通過》
ツールーズの声がするのだ。起点のツールーズである。はるかかなたの神。
十分間で、この知らせがバルセローナからカサブランカおよびアガディルを経てわれわれのもとに届き、続いてダカールのほうに伝わった。全線五千キロメートルにわたって、各空港が緊急連絡を受けていた。午後六時の連絡再開のときに、われわれのもとにさらに連絡がはいった。
《郵便機二十一時アガディル着 二十一時三十分ユービ岬ニ向ケテ出発ノ予定デ同地ニハ ミシュラン照明弾[ref]ミシュラン照明弾…着陸誘導燈のない着陸地への夜間着陸、もしくは夜間不時着用のマグネシュウムによる照明弾で、その光域は一・五キロメートルにおよぶ。プロペラ機の末期まで使用された[/ref]デ着陸ノハズ ユービ岬ハ常備灯ヲ用意セヨ アガディルトノ連絡ヲ保テ ツールーズ発信》
ユービ岬の観測所から、サハラ砂漠のまん中で孤立した私たちがはるかな一つの彗星のあとをたどっていたのだ。
1.語り手と主人公の関係
まず、私が言っておきたいことは、『南方郵便機』の語り手は主人公とは別の人物だということだ。ここでのnousは「われわれ」と「私たち」と訳し分けられていて、長塚さんの訳し分けの違いについてまだ理解がまとまっていないのだが、とりあえず、『ボヴァリー夫人』のnousをサン=テグジュペリが意識しているかもしれないと考えると面白い。
2.語り手の居場所
語り手の居場所はアガディルの南、ユービ岬(キャップ・ジュビ)だということをおさえておこう。キャップ・ジュビは1927年10月から飛行場主任としてサン=テグジュペリが1928年10月にアルゼンチンのブエノス・アイレスにアエロポスタル・アルヘンティーナの開発部支配人として赴任するまでの約1年間過ごした場所であることを思い出そう。
3.無線通信
Par radio. 6 h. 10. De Toulouse pour escales. Courrier France-Amérique du Sud quitte Toulouse 5 h. 45 stop.
《無電連絡 六時十分 ツールーズヨリ各着陸地ヘ フランス――南米間郵便機ハ五時四十五分ツールーズヲ出発》
全編を貫くこの無線連絡は当時のラジオ帯域を使ったT.S.F. 無線通信(Télégraphie sans fil)で通信コードはモールス信号ではないかと思う。以下のコードはテキストをモールス信号に変換してくれるサイトで、同時にwavファイルを発生させてくれる。
2つの違った速度で音声化したファイルを聞くと、上のは7 WPM (words / minute=1分間に7単語の速度)と遅く、下のは20 WPMと早いのがわかる。無線通信士はレシーバーでモールス信号を聞き取って文字起こしをして行く。つまり下の音声を耳で聞いて
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