百人一首 ラブ
2019年3月13日
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百人一首 ラブ
橘 かほり著
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「百人一首 ラブ」は、第一章の「百人一首 ラブ」と第二章「祖母の諺聞き語り」に分かれています。 まず、第一章の「百人一首 ラブ」について、簡単にお話ししますと「小倉百人一首」の和歌を本歌とした初の本歌取りの歌集です。本歌取りの歌とは、「新古今和歌集」などによく使われていた和歌の修辞法の一つです。本歌取りは、古歌の特徴的な語句を使ったり、古典の一部、たとえば物語などを下敷きにしたり、また漢詩文の発想を踏まえる修辞法です。それを使うことで、古歌などの持っている世界の上にさらに新たな世界を展開させ、歌に重層的世界を生み出してゆくものです。例を一つ挙げましょう。 「小倉百人一首」の94番に「み吉野の山の秋風さ夜ふけてふるさと寒く衣打つなり」という和歌があります。この和歌には、実は本歌があるのです。それは、「古今和歌集」の「み吉野の山の白雪積もるらしふるさと寒くなりまさるなり」です。「古今和歌集」にある「み吉野の山」、「ふるさと寒く」を使いながら、「小倉百人一首」の方では「み吉野の山」という場所は同じですが、季節は冬から秋に、また、冬支度をする「衣打つ」という情景を加えることで、さらにこの「み吉野の山」の風景が、触覚を主体とした叙景から聴覚を歌の中に取り込むことで風景だけでなく、心まで荒涼としてくる抒情にまで深めています。「古今和歌集」の歌の世界を読み手の脳裡の中で二重写しにしながら94番歌の世界を増幅してゆく効果が出るのです。 このように、「百人一首 ラブ」は、「小倉百人一首」の時代より前、すでにあった本歌取りの修辞法で現代短歌を百首詠んだものです。短歌の詠み方の一つと考えて頂ければ良いのです。今、なぜ本歌取りなのかですが、現代短歌の世界ではあまり見ることがないからです。伝統的な手法として今回、本歌取り以外に、枕詞、掛詞、縁語、体言止めなども使っています。例えば、本歌33番歌の拙歌「久方の」は「光」にかかる枕詞です。掛詞は1番歌の「秋の宵」の「秋」は「飽き」を掛けています。縁語は、23番歌の「千々に」の「千」と「ひと秋」の「一」がそれで、「千」と「一」がゆかりのある言葉の関係になっています。体言止めは70番歌の「秋の夕暮れ」が体言(名詞)で終わっています。体言止めを使うと余情が出ます。また、今回は使っていませんが、折句、序詞という修辞法や歌体も、長歌など他の歌体もあります。このように多くのものを生み出してきた和歌の歴史があります。和歌の修辞法は、古くは「万葉集」の時代からあり、現在見る形になってきました。この歴史の中で磨かれてきた修辞法を使わないのは、あまりにももったいなく、残念です。この修辞法を使うことで短歌の世界がさらに広がり、奥深さや面白さが増したらどんなにいいでしょう。この本を手にされた方がこの昔からの修辞法の魅力を知って、さらに意識が広がったり、本歌取りの短歌を詠んでみようと思われたり、また、拙歌から「小倉百人一首」の本歌の何番かを当ててみるのも楽しい一つの読み方かと思います。
著者について
Posted by hnakata